このニュース、白黒つけてください!~ニュースサイトも知らない日本語
こんにちは。ダンラクライターの坪内悟です。
先日、こんなニュースをネットで見かけました。
富士フイルム、白黒フィルムの販売終了=82年の歴史に幕
富士フイルムは6日、写真用の白黒フィルムと白黒印画紙の販売を終了すると発表した。既に製造を中止しており、白黒フィルムは10月ごろに在庫がなくなり、出荷を終える見通し。1936年から続いてきた82年の歴史に幕を下ろす。カラーフィルムの製造・販売は継続する。
(2018年04月06日 某ニュースサイトの記事より)
高校時代、写真部に在籍し、この『ネオパン』というフィルムと印画紙をよく使っていた私にとってはとってもショッキングなニュースだったのですが、
この記事、実はおかしいところがあるんです。
あなたはどこだかわかりますか?
・・・ん?『富士フイルム』の「イ」が大きいじゃないかって?
『富士フイルム』の「イ」が大きいのは正しいんです。
『富士フィルム』ではなく『富士フイルム』。
(でもあくまで「イ」が大きいのは社名だけで、扱っている商品の方は『フィルム』と小さな「ィ」で表記しています)
これと似たように、
カメラメーカーの『キヤノン』も「ヤ」を大きく書くのが正式社名。
でも読み方は「キャノン」と、小さな「ャ」で読みます。
ところが『富士フイルム』の方は、読み方もあくまで「富士フイルム」。
「富士フィルム」とは読まないので気をつけてください。
・・・というわけで、おかしいところはそこじゃありません。
それではいったい・・・!?
なんと!
富士フイルムから発売していたのは、『黒白フィルム』
えぇぇぇぇ!
なんでテレビは『白黒テレビ』っていうのに、
フィルムは『黒白フィルム』なの!!!???
それはカラーフィルムが拡がるもっと前。
写真はもともと西洋から入ってきた文化でしたから、海外から来たモノクロフィルムにも、こんな英語が書かれていました。
『Black and white film』
そう、英語圏では「白と黒」は“ black and white”と表現します。
決して“white and black”とは言わないのです。
なので、これをマネして「黒⇒白」と訳したというわけ。
由緒正しい富士フイルムはこれを誇りに、いまだに『黒白フィルム』と呼んでいたのですね。
よく見ると『ネオパン』の箱にもちゃんと、
「Film for Black and White Prints」って書いてあるんですよ!
(印画紙の方も、『黒白印画紙』になっています。ぜひググってみてください)
ところが大手でも、これを知らないニュースメディアがいっぱい!
各サイトでもざっと見ると、
時事通信社「時事ドッドコム」×
NHKオンライン×
毎日新聞サイト×
読売新聞サイト×
ニコニコニュース×
東京新聞サイト×
共同通信サイト×
・・・と、のきなみ『白黒フィルム』と記載。
まぁ一般名詞としては「白黒」のほうがわかりやすいからかもしれませんけど・・・
そんな中、朝日新聞と、ほんのいくつかだけは
ちゃんと『黒白フィルム』と記載していました。
富士「黒白フィルム」販売終了へ 80年超の歴史に幕
富士フイルムイメージングシステムズは6日、白黒写真用の「黒白フィルム」の販売を終えると発表した。需要がプロ写真家や愛好家に限られ、生産コストをまかなう販売量の確保が厳しいと判断した。生産はすでに終了。国内での販売は今年10月の出荷分までとし、海外でも順次とりやめる。
(2018年4月6日 朝日新聞デジタルより)
※追記(2019年06月):2018年秋に販売を終了した黒白フィルムですが、富士フイルムはファンからの要望に応え、新たに開発した商品を2019年秋から販売すると発表しました。
でもこれを伝える朝日新聞デジタルの6月の記事では『白黒フィルム』の記述になっていました。4月の記事を書いた記者さんが「写真好き」だったからかもしれません・・・(涙)
あ、ちなみに厳密に言うと、『モノクロ』は、「モノクローム(monochrome)」の略。
つまり「単色」のこと。
1つの色であれば、別に黒じゃなくても『モノクロ』になるというわけです。
では、最後に『黒白フィルム』にビックリしたあなたに、
こんな衝撃の事実もお伝えしましょう・・・。
『白黒をつける』ではなく、
『黒白をつける』というのが正しい。
意味はもちろん「物事の正邪・善悪・是非をはっきりさせる」ということで、
まぁ現代ではどちらもアリだとされますが、
本来は『黒白をつける』が正解。
『黒白(こくびゃく)をつける』と読みます。
漢語っぽい読み方ですね。
同じ意味では「黒白(こくびゃく)を争う」なんて使われたりもします。
この白と黒の語源は、囲碁の碁石の色からきているそうで、
「決着をつける」感がバリバリ伝わってきますね。
でも、ここでもやっぱり気になるのが、順番ですよね!
「白黒」を表現するのに、
中国では『白黒テレビ』を『黒白電視』と言うように
やっぱり「黒⇒白」の順。
ちなみにオセロゲームも『黑白棋』と言い、黒が先に来るんですね。
先ほどの『黒白フィルム』といい、『黒白をつける』といい、
日本ではなぜ「黒⇒白」より「白⇒黒」が一般的になったのか?というと・・・
『目を白黒させる』などの表現と混同して使われるようになったから
・・・なんて言われています。
他には・・・
『モノクロ』の“クロ”に引っ張られて、
「白黒」の語呂が心地よかったからでは?
・・・なんて意見も。
さらに調べてみると『白黒』は、
韓国語では『흑백』、フランス語では『noir et blanc』、
ラテン語では『nigrum et album』、フィンランド語では『mustavalkoinen』、
ロシア語は『Черно-белый』、ハンガリー語では『Fekete-fehér』、
オランダ語は『Zwart en wit』、ドイツ語では『Schwarz und Weiß』 などなど
・・・と、かなり多くの国が『黒⇒白』の順らしい。
う~ん、日本人が「白⇒黒」の順が好きな理由は、結局解明できずでした・・・。