いま密かなブーム!? 写経体験で「文字」に向き合う
御朱印集めやマインドフルネス瞑想ブームで寺院への参拝客が増加する中、
近年注目を集めているのが「写経体験」。
写経は、仏様の教えが書かれたお経(経典)を書き写す、「文字」を書く修行です。
そして、私たち校正・校閲士にとって原稿用紙に書き入れる「文字」は
お客様へお渡しする大事な“商品”。
パスコンやスマートフォンが普及している現代では、もしかしたら手書きの「文字」をお見せする機会が最も多い職種かもしれません。
そのため、同じく「文字」と向き合う写経体験に興味を持ち、
2018年6月10日(日)に行われた成田山写経大会へ参加してきました。
当日の成田市付近は、時折雨がぱらつくような、まさに梅雨真っただ中のお天気。
会場のある成田山新勝寺への参道は、朝だったためか人影もまばらで、まだ開店していないお店もありました。
けれども、そんなひっそりとした様子が昔ながらの街並みと合っていて、何だか風情があります。
成田山の名物のひとつと言えば鰻。
写真はメディアで度々取り上げられている人気店「川豊」本店さんです。
この店舗は大正6(1917)年に建てられたかつての旅籠だそうで、純日本家屋ならではの歴史と趣が感じられます。
数名のスタッフが軒先で次から次へと生きた鰻を鮮やかに捌いていく姿はまさに職人技。
その作業風景に見入っているうちに、鰻の焼ける良い香りが漂ってきて……この後写経体験が控えていなければ、朝から思わず立ち寄ってしまいそうになりました。
そんな誘惑を振り切って参道を抜けると、成田山新勝寺の総門が見えてきます。
総門は高さ15mの総欅造り。迫力があります。
写経まで少し時間があったので、成田山の境内を回ってきました。
重要文化財の仁王門を抜けて大本堂へ。
境内はとても広いので、公式サイトで紹介されているいくつかの「おすすめコース案内」を参考にしてみるのもいいかもしれません。
ちなみに、私が選んだのは御堂ごとの6つの御朱印をいただきながら境内を巡る「御朱印コース」。
参拝や拝観、写真を撮りつつ、40分ほどでコースを完歩しました。
さて、いよいよ写経大会会場へ。
写経大会の定員である250名を収容できる広い会場には、シニア世代を中心に、若い女性の友人同士や家族連れなど、非常に幅広い層の参加者が集まっていました。
案内された座卓前には墨や筆、経典の文字が薄く印字してある半紙が用意されています。
正直、毛筆を使うことがあまりにも久々すぎて、まともに文字を書けるかすら不安だったのですが、この仕様であれば何とかなりそう。
成田山の写経に初めて参加した際には文庫本サイズほどの「納経帖」が授与され、以降は参加するごとに下の写真のような日付と印をいただけます。
完成です!
『般若心経』一巻、278文字を一時間かけて書き上げました。下書きがあるとはいえ、やはり毛筆の扱いはとても難しく、文字が擦れたり、細かい部分が潰れてしまったりと悪戦苦闘。
けれども、そうして一文字一文字丁寧に「文字」と向き合い続けていると、
改めて「文字」の奥深さに気づくことができました。
なかでも強く感じたのが、「文字」の読みやすさは〝集合体〟になった時の美しさが重要だということ。
もちろん、ひとつの「文字」自体の形や終筆(とめ・はね・はらい)などがきれいであることは大前提ですが、書道家などではない限り、私たちが日頃取り扱い、相手から見られるのは単体ではなく集合体の文字です。
文字の前後や同じ行、隣の行、また紙面全体で見たとき、さらには文字がない「余白」部分に至るまで、そのバランスすべてに意識を巡らせて、ようやくそこに書くべき一つの「文字」を見出すことができる。
一枚の半紙に書き連ねた経典は、そんなことを私に教えてくれたように思います。
今回の写経体験で気づいたことを生かし、お客様にもっと読みやすく、もっと見やすい校正紙が作れるよう、これからも頑張っていきたいです。
【ちょっとひと息】
写経体験の後は鰻、ではなく、今回の写経大会の一部である精進料理をいただき、参道にある人気の甘味処、「三芳屋」さんで休憩。
美しいお庭を見ながら絶品のスイーツをいただきました!
周辺のこうした素敵なお店への寄り道も楽しみながら、写経体験でゆっくりとした、静かな時間を過ごしてみてはいかがでしょうか。
Kao
校閲士・美術史修士。大学在学時に旅行したイタリアでアートに魅せられ、独学で美術史を勉強し大学院に入学、修士号を取得。
趣味はアート、歴史、ファッション、旅行、ご当地テディベア集め。
好きな画家はクリヴェッリ、クラーナハ(父)、モロー他。