欧米では生活の一部! 心の不調にカウンセリングという選択肢を
現在、新型コロナウィルスの感染拡大に伴い、外出自粛による自宅滞在時間の増加や働き方の変化、将来の不安などによって、身体だけではなく心の不調を訴える方が増えています。
そこで、今回はそうした心の問題や症状を改善していくための一助として、心理カウンセリングの利用という選択肢をご紹介したいと思います。
カウンセリングは「心が弱い」人が受けるもの?
この記事を執筆している私自身も、数年前勤めていた職場の人間関係が原因でうつ症状が出ていました。
毎日気分が重く、出勤すると動悸や頭痛に襲われ、上司や先輩からの指示もろくに頭に入らず、質問をされても喉が詰まったようになって会話すらままなりませんでした。
また、職場から離れていても職場内の騒音・話し声が聞こえてくるような気がして一時も心が休まらず、しまいには顔や体じゅうにおびただしい数の吹き出物や湿疹が現れ、夏でもマスクつけたり長袖を着たりしないと恥ずかしくて外に出られなくなりました。
けれども、そうした状況にも関わらず、当時の私は医療機関やカウンセリングルームに足を運びませんでした。そういった場所に行くのは「心が弱い人」だという漠然としたイメージを持っていたからです。
“たかが”心の問題くらい自分で解決出来るはず、むしろ出来ないなんて情けないことだとすら思っていました。
欧米ではカウンセリングに行くのは「よくあること」「いつものこと」
このように心理カウンセリングにネガティブな印象を抱いていた私でしたが、ある日書店で偶然『アメリカ人は気軽に精神科医に行く (ワニブックスPLUS新書)』(表西 恵著・ワニブックス)という書籍を手に取り、その認識は一変しました。
この本のタイトルにもあるように、メンタルヘルス先進国である欧米諸国では心の健康を保つことは非常に重要な課題だと認識されているのです。
心理カウンセリングももはや日常に溶け込んでいるといっても過言ではなく、彼らは仕事をはじめ子育てや恋愛、親との関係、子ども時代のトラウマなどといった自分の人生に根ざした問題を、気負いなくプロのカウンセラーやセラピストに相談しに行くそうです。
欧米の映画やテレビ番組、文学作品などでこれらの職業の方々が度々登場することからも、その社会的認知度・利用率の高さが窺えます。
つまり、心理カウンセリングというのは決して特別なことではなく、身体の健康のためにジョギングをしたり、食事に気を遣ったりするのと同じように、心の健康をメンテナンスする日常的な行為なのです。
日本でも認知の広がり、制度の確立が進む心理カウンセリング
欧米諸国と比べ、日本においては長らく認知度が低く、当時の私のように偏見も多かった心理カウンセリングですが、現在では厚生労働省が「労働者の心の健康の保持増進のための指針」(メンタルヘルス指針、平成18年3月策定、平成 27 年 11 月 30 日改正)を定めるなど、メンタルヘルス対策、すなわち私たちの心の健康を保つことに対してかつてない注目が集まっています。
また、こうした事業によって活躍が期待されているカウンセラーについても、これまでは民間団体の資格のみであったためその資質や知識のばらつきが問題視されていましたが、近年制度の整備が進められ、平成29年9月15日に施行された公認心理師法により日本初の心理職の国家資格である「公認心理師」が誕生しました。
カウンセリングの基本的な流れ
このように、日本でも次第に重要視されつつある心理カウンセリングですが、そもそも心理カウンセリングとはどのようなことをするのか、漠然としたイメージしか持っていない方も多いのではないでしょうか。
カウンセリングを進めていく上で行われる療法(認知行動療法など)については各人の症状や背景によって異なりますが、カウンセリングの基本的な流れは以下のようなかたちになります。
【1】はじめに、カウンセラーは心の問題や人間関係の問題を抱えているクライエントからその主な症状を聞き、さらにクライエントを知るための様々な情報(現在の周囲の状況、子どもの頃の状況、これまでにどのような対処スキルを身につけて今に至るかなど)を聞いていきます。
最初は自分が何に困っているのか、何を辛いと思っているのかが漠然としていたり、自分でも気づいていなかったりするクライエントも多いそうですが、そうした場合でもカウンセラーが対話を通じてクライエントの隠れた気持ちやニーズを探り出し、クライエントの自己理解が深まるようサポートしてくれます。
【2】次に、カウンセリングをすることによってクライエントが今後「どのようになりたいか」(うつ症状の改善、症状に伴って上手くいかない人間関係の改善・機能回復を目指す、相手に誤解のないように自分を知ってもらえるような新しいスキルを獲得するなど)を聞き、クライエントとカウンセリング目標を共有していきます。
【3】2と同時に、カウンセラーは「見立て」(アセスメント)をし、目標を無理のないものに修正したり、クライエントにとって必要だと思われる新しい価値観やスキルなどの獲得を提案したりしていきます。
そうして決まったカウンセリング方針に基づき、目標に向けたカウンセリングを行っていきます。
日本で心理カウンセリングを受けるには?
さて、いざカウンセリングを受けてみようと思った時、多くの方が直面するのが「どうやってカウンセリングが受けられる場所を探したらいいのか?」という問題ではないでしょうか。
すでに心療内科などに通っている、カウンセラーの知り合いがいる、といった場合はそこで紹介してもらえばいいですが、おそらく大抵の方はまずインターネットを使ってカウンセラーやカウンセリングルームについて調べてみようとするはずです。
そして、その膨大なヒット数にめまいがしそうになるでしょう。
しかも、実は「カウンセラー」や「セラピスト」というのは、名乗ること自体は誰でも出来る肩書きです(※公認心理師や臨床心理士などは有資格者のみが名乗れます)。
仮に、私が明日から自分の名刺に”○○カウンセラー”と印字しても法律上は何の問題もありません。
つまり、たとえ検索上位に上がってきたとしても、もしかしたらSEO対策知識に優れているだけの”自称”カウンセラーだった……という可能性も否定できないのです。
では、私たちが信頼できるカウンセラーを見分けるには、一体どうすればよいのでしょうか。
その判断材料のひとつとして、上述した国家資格の「公認心理師」や、養成課程の設けられた指定大学院または専門職大学院の修了を基本とする「臨床心理士」などの資格を持っているかどうかということが挙げられます。
また、様々な知見を得られる病院勤務の経験があること(※精神科や心療内科などでは、治療プロセスの一部を担うためカウンセラーを雇用しているところがあります。逆に言えば、病院に行きさえすれば確実にカウンセリングが受けられるというわけではありません)なども、カウンセラー選びの一助となるでしょう。
心の健康は、体の健康と等しく、充実した人生を送るために必要不可欠なものです。
ひとりで悩んでいても解決しない心の問題があれば、プロの心理カウンセリングを受けてみることを検討してみてはいかがでしょうか。
【今回アドバイスをいただいた専門家】
カウンセリングルームhaco -女性と家族と夫婦のための心理相談室-
代表 Shiori Tashiro
公認心理師(国家資格)、臨床心理士
Kao
校閲士・美術史修士。大学在学時に旅行したイタリアでアートに魅せられ、独学で美術史を勉強し大学院に入学、修士号を取得。
趣味はアート、歴史、ファッション、旅行、ご当地テディベア集め。好きな画家はクリヴェッリ、クラーナハ(父)、モロー他。