日本語と英語。…かくも深き溝
近頃は駅だの街中だのでやたら、日本語と並んだ英語表記を見かけることがある(前からか?)。
私は「英語ペラッペラになりたいなあ…」とわりといつも思うだけは思っているので、よくそれらを注意深く観察している。
愉快な発見もある。
「有明湾で海苔の収穫作業が始まる」というニュースの英訳が「seaweed in ariake sea」だった。
いやそれじゃ「有明湾の海苔」じゃないか!!収穫作業が始まったことに触れておくれよ!
系統の違う言語を真に理解することの難しさも感じる。ビジネスホテルの洗面台に貼られたプレートにこう書いてあった。
「GOOD TO DRINK この水はお飲みいただけます。」
日本で普通に生活していると一瞬「そらそうよ」と思うけれど、水道の蛇口をひねって出てくる水をそのままぐびぐび飲める国というのは世界にあまりないので、外国人観光客の中には日本の水道水は普通にゴクゴクしていいことを知らない人もいる。
おそらく単語の意味的に正しい訳は「飲むためには良い=飲むのに適している」だろう。
でもそれだと「日本の水道水は飲めますよ」というニュアンスを含まない。日本という国をより理解してもらうために、このような一文になったと考えられる。
この手の表示はわりとどこにでもあるのだろう。作家の三浦しをん氏はこれを見て大胆にもこの文の和訳を「飲むがいい!」とした。彼女らしい翻訳だ。
謎なのは、これが日本のビジホにあったということだ。
要るのか、和訳…?
「英語にしにくい日本語」というのがある。
有名なのは「よろしくお願いします」だろう。
よく仕事のメールとかで最後につけるヤツ。コピペで済ます無礼者もいるヤツ。英語にはこれに当たる言い回しが無いそうだ。
えー不便じゃない?と思う。欧米人だって袖の下を渡すことくらいあるんじゃないのかしら。黄金のカステーラを箱の下に忍ばせたりしないのかしら。そういう時、相手になんて言うの?欧米人はなぜかいつも強気だから(偏見)「そういうことだ。あとは分かるな?」とか言うんだろうか。「いい感じにしといて☆」とか?
どちらにしてもこの「よろしくお願いします」の一文が持つ「へりくだりつつもそこはかとなくただよう威圧感」を表現するのは難しいのだろう。本音と建て前を使い分ける日本人の国民性か。
「もったいない」も英訳しがたい表現として有名ですね。
やはりえー不便じゃない?と思う。欧米人は消費期限を大幅に過ぎてしまったお肉を冷蔵庫の隅に見つけた時どう思うの?あと可愛くデコレーションされたケーキが床に真っ逆さまに落ちてつぶれちゃった時とか。
「やってしまった…!」「遺憾である」「今日のボクは最高にツイてないよ!」とか言うのか。貴様ら、食い物に対するリスペクトは無いのか!お肉もケーキも、その存在意義を台無しにされたんだぞ!…勝手な想像で怒ってしまった。すみません。
「もったいない」には自らの過失を悔いるとともに、失われてしまったものへの哀惜の情が感じられる。それほどまでにあなたという存在に価値を感じていたのに…!という魂の叫び。八百万の神々が宿る日本人独特の考え方なのか。
ちなみにもったいない、とは食べ物だけに使われる言葉ではないけれど、食べ物に対する場合とその他に使う場合では熱量がなんか違う気がする。日本人は食いしん坊だからか。
あとは「わびさび」。
これは仕方ない。英訳以前に当の日本人が理解できてない。古いものや朽ちたものに情緒を感じること、らしいがそれで合ってる?苔むした古寺とか退色した鳥居とか見て「これが美か…一朝一夕には得難いものよ…」ってなる感じってことでいいの?そんなあやふやな認識しかない言葉(というか感覚?)を他言語に翻訳するなんて無理でしょ。
まず日本の歴史とか美的感覚とか景観に関する意識とかそういうものから説明を始めて、たぶん原稿用紙1枚分くらいの長さの英文になるね。もはや論文か。
(Oh,no!!ワサビちゃう、わびさびや…!)
ネットの時代になって、我々が得る情報は昔とは桁違いに多くなった。外国との行き来も容易になり、言語の壁はかつてより低くはなっているのだろう。
そして我々も日々、何やらわけの分からない新語を生み出している。「ばえる」とか。「タピる」とか。なんだそりゃ。「チョベリバ」とか結局定着しなかったな。あまりの意味不明さに暗澹たる気持ちになることもあるが、外国語も同じだったりするのかな、とも思う。
そのうち、「わびさび」に当たる新しい英文表現が生まれるのかもしれない。