「理想の校正」は「赤字を入れないこと」!?
校正チェックの仕事をしていて、校正紙が真っ赤になるほど、たくさんの赤字を入れると、「よ~し、これでどうだぁ!」といわんばかり、いかにも”仕事したぞ!”という気になるものです。
でも、ちょっと待ってください!
・・・その自己満足は、なにか間違っていますよね。
つまり大量の赤字が入ったということは、なんらかの理由で、たくさんの間違いや不適切な内容があったということです。まぁ人間のすることですから、多少のミスや行き違いなどは仕方がないとしても、大量に赤字が入るというのは「異常事態」です。
1. 大量の赤字は「異常事態」
つまりはこのように考えられるのです。
チェックする人も、修正する人も、いたずらに多くの労力を費やし、間違えるリスクも飛躍的に高くなるということです。
制作の全体から眺めれば、みんなの作業負担が大きいにもかかわらず、だれも得をせず、なんのメリットもないというやり方です。
冷静に考えれば、このことは明らかなのですが、案外と「大量の赤字修正が当たり前」になっているような制作現場は、まだたくさんあるのではないでしょうか。
そういう非効率かつハイリスクな制作方法をとっていながら、精度を高めたり、労力を減らしたりする改善策を練ろうというのは、なかなか現実的な解決になりません。
もちろん広告系の制作物には、商売の事情というものがありますので、制作途中での赤字修正をゼロにするようなやり方は無理だということはあります。仮に制作期間が2週間としても、そのあいだに商売の事情に変動があり、訂正をせざるを得ないということは十分にありえます。
ところが、ふつうの広告制作においては、すべての訂正が上記のような「必然性のある訂正」だとは限りません。
むしろ、赤字訂正が大量に発生するケースでは、「必然性のある訂正」よりも「必然性の希薄な訂正」のほうが断然多い傾向にあります。
2.「必然性の希薄な赤字」とは?
商売の事情による「必然的な訂正」、これをゼロにするわけにはいきません。
すると、「制作途中での訂正は必然的だ」ということになり、”仕方がないことだ”という論理が生まれます。
これに乗じて、「必然性の希薄な赤字」も大量に発生し、ハイコスト&ハイリスクな制作が正当化されてしまう、こういう流れが生まれてしまいます。
こんなに赤字が多いのはオカシイのでは?と疑問に思う人がいても、「いや、赤字をなくすことはできないのだから仕方ない」という理屈に呑まれてしまうことが多いのではないでしょうか。
ここで冷静に考えるべきことは、その大量の赤字のうち、「ほんとうに必然的な赤字」はどのくらいの割合か?ということです。
つまり「必然的とはいえない赤字」を分類し、それがどういう理由で赤字になっているかを分析することが必要です。
「必然的とはいえない赤字」というのは、制作の途中でオカシイと思って直す赤字のことです。途中でオカシイと思って直すのなら、はじめからオカシクナイ、キチンとしたものを作っておけば直さずに済むということです。
「いやいや、そう理屈通りにはいきませんよ」そう思う方も多いかもしれません。でも、それは「途中でどんどん直しながら作る」というやり方に慣れてしまっているから、そう思うのです。
「いい制作物を作りたければ、いかに初校の精度を高くするか?」
これがとても大切なことは自明です。初校の精度が高いということは、キチンと設計が出来ているということです。
途中で、あれこれ修正しながら、初校→再校→念校と進むうちに、紙面の精度がだんだんと良くなっていくという経験は、だれでもすることと思います。
でも、その修正が大きければ大きいほど、「初校に不備が多かった」ということです。同時に、途中修正が大きければ大きいほど、結果が偶然に左右される度合いも大きいといえます。
3.校正も「源流管理」が必要
製造業の品質管理には、「源流管理」という言葉があります。
製造業では工場出荷時に必ず検品チェックをします。検品で不具合が見つかると、ダメな製品を流通させることなく水際で止めたのですから、「よかったね」ということになります。
あるいは場合によっては、検品のアミをすり抜けて、不良品が市場に出てしまうということもありえます。そうすると、これを防ぐための対策が必要になります。そのときどうしても、「もっと検品の体制を強化しなければ」、そう考えがちになるのですが、ここが考えものです。
どういうことかというと、そもそも検品をすり抜けて不良品が市場に出たということは、製造工程での不良品の発生率を疑ってみなければいけないからです。
たとえば、不良品の発生率が5%のときの検品と、不良品の発生率が10%のときの検品と、その体制は同じでよいのだろうか?ということです。不良品の発生率が高ければ、検品体制も強化する必要があることは自明です。
ところが・・・です。もし不良品の発生率が高いことが判明したとして、それに見合った強固な検品体制を構築すべきだ、そう結論をくだしてもよいのでしょうか?
これでは、明らかに本末転倒です。
もし、検品をすり抜けるほど不良品発生率が高かったならば、「まずは不良品の発生率を下げるべきだ」、そう考えるのが正解です。
もし不良品発生率が10%だとすると、検品ですべてチェックできたとしても、製造の全工程で10%の無駄な仕事をしていたということになってしまいます。
では、不良品発生率をいかに下げるか?
これが製造工程の全体を効率化すると同時に、不良品が市場へ出てしまうリスクを下げるための正しい対策です。
不良品の発生率を下げるとは、どういうことでしょう?
ずーっと製造の源流に遡って、製品設計や材料調達まで点検し、不良品が発生する原因を突き止め、それを除去する。
これが源流管理の基本的な考え方なのです。
広告などの制作の仕事も、理屈は同じです。できるだけ源流に遡って、不備や不良が発生する原因を探し、それを改善するようにすべきです。ありうべきフローを見つけるまでには時間がかかるかもしれませんが、いったんフローを構築したら、その効果は素晴らしいものになるはずです。
初校紙にまったく赤字が入らずに、そのまま校了するとしたら、それこそが「理想の校正」ですよね。まさに“完璧”というやつです。
もちろん、だからといって、「校正しない」とか「検品しない」とかは、ありえないですけどね!