あの人、根本的にこの仕事に向いてない・・・さて、どうする?
あたりまえですが、人間には、一億人いれば一億通りの外見があります。別々の人間なのにまったく外見が同じで、見分けがつかないということは、まずありません。
同じように人間には、それぞれ性格というものがあり、個性があり特徴があります。
一億人いれば一億通りの個性がある、そう考えてよいはずです。
それに比べると、仕事というのは、案外と種類が少ないものです。それ相応のバリエーションはありますが、一億通りというわけにはいきません。実際に数を数えるのは難しいけれど、まあ仮に仕事の種類は一万通りくらいだとしてみましょう。そうすると、一億人の人が一万通りの仕事に就くということになります。
単純計算だと、一万人が同じ種類の仕事をするということです。だとすると、一万通りの個性が一種類の仕事をするのですから、全員がその仕事の適正にピッタリ合っているということは難しそうです。
もちろんこれは単純化した話なので、現実にこの通りということではありません。けれども同じ種類の仕事を、さまざまな個性の人間がシェアしているということは、現実に起っていることと矛盾しません。
適材適所とはよく言ったもので、人間が仕事で能力を発揮するためには、その人間の個性と仕事の適正とが、できるだけ合っているほうがいいのは当然です。
この適材適所をいかに実現するかということが、組織のパフォーマンスを上げるには必須のマネジメントだといえます。
もちろん事後的な教育や訓練、また本人の努力も大切であることはいうまでもありません。とはいえ、それだけで解決できると考えるのには無理があります。
適材適所は、放っておいても、あるていどは自然に実現される傾向にはあります。明らかに向いていない仕事を、本人もやりたいとは思わないでしょうし、また周囲もやらせようとは思わないからです。ふつうの組織であれば、だいたいこれでバランスがとれるはずです。
しかし、自然に実現される適材適所には、やはり限界もあります。さまざまな要因が考えられますが、まず偶然にかなり左右されること、人数や規模に左右されること、組織の仕組みや仕事の種類にも左右されることなど、いろいろと列挙できると思います。
どうしても偏りがあるといえますし、“そこそこ”のバランスというのが、現実的な落としどころとなるのがふつうです。
この“そこそこ”が、どの程度の“そこそこ”か?というのがポイントです。人間には、かなりの環境適応力というものがありますから、本人も周囲も、あまり適正がないのでは?と思っていても、“まあいいか”ですましていることが、たくさんあるはずなのです。
なおかつ、仕事の適正の話というのは、なかなかデリケートで難しい側面があって、これがまた大きなネックになります。どういうことかというと、たとえば上司が部下に、「あなたこの仕事に向いてないねえ」と発言したとすると、いまならパワハラと言われること間違いなしだからです。
本人のプライドを傷つけずに適材適所を実現するためには、否定的な決めつけは一切してはいけません。たとえば、Aさんは、この仕事が好きだと言っているけど、どうもこの仕事には向いていない、別の部署へ異動させたい、こういう場合にはどうしたらいいでしょうか?
ある程度の社会経験のある人なら、この答えはすぐにわかると思います。
「別の部署で、どうしてもあなたの力を必要としている。大変重要な仕事で、あなたでなければできない仕事なので、ぜひとも異動してもらえないだろうか」と言って説得することです。
もちろん、ものの言い方はとても難しいはずです。あからさまなことを言わない方がいいのは当然なのですが、だからといって、あまりにも嘘っぽいことを言うと、誤解されてしまうかもしれませんし、かえって傷つけてしまうこともありえます。
また、ここで注意すべきことは、美辞麗句でもって事態をごまかすことが目的ではないという点です。Aさんに対して直接、「この仕事に向いてない」と宣言する必要はないのですが、話のバックグラウンドとして、その趣旨がAさんに伝わることは悪いことではないからです(その必要があるといってもかまいません)。
なんとも面倒な話ではありますよね。そんな微妙なことをしなくても、人事異動など強権をもってズバッとやればいい、そう考える人もいるでしょうし、実際にそうしている組織もたくさんあるはずです。
本人が納得するように説得するか、強権的に一刀両断にやるか、どっちがいいのかの結論をあえてここでは出しません。すくなくとも強権的なやり方が根付いている組織であれば、それも有効なやり方だということは確かでしょう。おそらくどっちがいいのか、二者択一で結論の出るようなことがらではないと思います。
ことさらに人事というのは難しいものです。でも、組織のパフォーマンスを高めるためには避けては通れないものです。なおかつ具体的に、どういうやり方が望ましいかは、その組織の体質のようなものによって、ケースバイケースというほかない部分が多々あるはずです。
さて表題の問いの答えですが、適材適所を実現する方策を考えるのが、いちばん有効なソリューションです。具体的な方法は、その人の個性やそのときの状況や会社の状態などによってケースバイケースです。
ただ、すくなくともそれを放置して、周囲の人も当の本人も「やりにくいなあ」という感情を抱えたままにしておくのが、よい選択でないことだけは確かです。
モヤモヤ・ギクシャクとした環境のなかで、仕事のパフォーマンスがあがるなんてことは、絶対にないのですから。