ミドル世代に訊く 『純烈』リーダー・酒井一圭さん【前編】リーダー術とは何なのか
「スーパー銭湯アイドル」といえば『純烈』。「夢は紅白!親孝行!」というキャッチコピー(と夢)を持ち、3回連続紅白出場の夢を叶えました。
そして、本日9月10日からは主演映画『スーパー戦闘 純烈ジャー』が全国公開されます。
今回は、そんな国民的ムード歌謡グループ『純烈』のリーダー・酒井一圭さんに、“リーダー術の秘密”を訊いています。果たして、『純烈』の頭脳に触れたその結果は? お楽しみください。
酒井一圭(さかい・かずよし)プロフィール
1975年6月20日生まれ、大阪府出身。AB型。
役者として『逆転あばれはっちゃく』(1985年)で5代目桜間長太郎役。第71回アカデミー賞作品賞映画『シン・レッド・ライン』(1998年)、『百獣戦隊ガオレンジャー』(2001年)など出演。
DDTプロレスリングのブランド『マッスル』で2005年リングデビュー。2006年には新宿ロフトプラスワン・プロデューサーとしても活動。
ムード歌謡グループ『純烈』のリーダー・プロデューサー。
2010年『涙の銀座線』でデビュー。「夢は紅白!親孝行!」を夢に掲げて、2018年に第69回NHK紅白歌合戦初出場。70回、71回と3年連続出場となる。
純烈オフィシャルウェブサイト
『純烈』初主演映画『スーパー戦闘 純烈ジャー』が9月10日より絶賛公開中!
ーー酒井さんを見ていると、いろいろなことを飄々とこなしているように思います。
自分の場合は普通に小中高と行きましたけど、その中でも僕は、9、10歳のときに『逆転あばれはっちゃく』で子役をしていて。そこで「ズレ」たんですね。地層がズレちゃったんです。
ーーまるで異世界転生みたいな(笑)。
はい。当時の小学生が『あばれはっちゃく』になるってことは、もう孤立を意味していて。仕事で学校にもなかなか行けない。そんな生徒を先生も受け持ったことがないから、通知表が斜線なんですよ。1から5とか評価できない。
そのあと、ちゃんと普通の子供にならないと、このままじゃえらいことになっちゃうぞっていうので『逆転あばれはっちゃく』の後に、芸能界を一旦やめて普通の子になるんですけど。その後、小学校6年生のときに多摩から千葉ニュータウンに引越しをするんですけど、その時点で誰も自分のことを「酒井」って呼ばないですね。「はっちゃくが来た!」「はっちゃく、はっちゃく!」って(笑)。大騒ぎですよ。家に中学生もヤンキーもなだれ込んでくるような。だから、本当のドラマみたいな感じになっちゃうというか、リアルが。
だからその「ズレ」を僕はもう背負うしかなくて。
ーー「ズレ」た世界に生きている。
本当(の理由)は……もともとヘンな人なんですよ(爆)。もともとヘンだから、はっちゃくとかになっちゃうんです(笑)。
(はっちゃくになる以前は)やんちゃだったからね。自分のパワーとか気持ちもコントロールできなくて、やんちゃして遊んでくれる人がいなくなっちゃって。そんな時に『あばれはっちゃく』のオーディションが来たので。ここではないどこかに行かないとダメになるというか。別の惑星、別の世界に行くような感じですよ。
はっちゃくを演じている時期にずっと考えていたのは、この反省を活かすというか。もう気分は罪人(つみびと)ですよ。だからそれからは、応援団やったり生徒会長やったり。
そして、人を褒めようと思った。人ってネガティブな要素もあるけれど、ポジティブな要素もあるじゃないですか。自分は、(人を)ぱっと見た時に、その両方が見えちゃうんですよね。その人のチャームポイントとウイークポイントが(一瞬でわかる)。
だから「褒めよう」「いいところを使おう」というか、そういうイメージがずっと今も続いちゃっていますね。
ーー早熟ですよね。しかも、小学生で、その人のいい点いやな点を見通すってすごいです。
早熟。だからあまり変わっていないですよ。結構自分に飽きてます、成長してないから。
よっぽどあの時の方が若いし天才じゃないですか。それが、だんだん年相応になってきて、言ってる言葉や考え方、実績とか行動とか信頼関係とかっていうことでいうと、ちょうど今がやっぱり自分にとっては円熟というか。それで飯を食えるようになってきたっていうのは、やっぱり今なんだろうなとは思うんですけど。
早熟なままずっと生きてきたので、同じようなこの考え方を30年以上熟成することが出来ている、とは思いますね。
ーーその観察力、洞察力に驚きますよ。
たとえば何かを進める「手続き」ってトランプみたいなものですよね。僕はそこがずるくて、相手のカードがある程度、透けて見えるんですよ。真剣に相手のことを見ているようで、その後ろにある鏡に映っているのを見るとか、いろんな角度から見れる。それも若い時に気づいちゃった。
だから悪用しないようにするのが大変だった(笑)。
ーーしかも、酒井さんの「人の心を蕩けさすような」笑顔で(笑)。
それ言われたことはありますよ。なぜ詐欺師にならない、なぜ宗教を始めないとか(笑)。こっちも割とある程度見抜く力で、相手によってはものすごいショートカットで友達になったり。それを信じられない、怖いとか気持ち悪いなと思う人も多いわけですよ。
自分も人懐っこいけど、人が多すぎるとしんどいとか、頼まれごとが多すぎるとしんどいからちょっと強めのことをみんなのいる前で言っといて、ある程度みんなをけちらしておくみたいなことはよく使う手だから(笑)。
ーーおそろしいほどの瞬間解析と計算ですね。
だから、いつもニコニコして「酒井くん、元気!?」という(自然体な)人にはかなわないなって。そういう人に壁は作りたくないし。そういう人のお願いが一番、断れない(笑)。
そこで成立させようとなったら、鬼のような手順をぱぱっと言うから、またそれで怖がられたり(笑)。
あと、現場の空気読むのも得意だったりするから。これから偉くなるなっていう人もわかる。逆に、今はあの人にみんな挨拶しているけど、たぶん10年後にはいないな、とか(笑)。
ーーこわいですよ、普通の人は。
そうかも。今は子供も4人いて、奥さんもいて、その父親の立場とかリーダーの立場で、経営者ではないけど、やってることってほとんど自分本位ではなく、みんなの所得が5000円でも上がっていく力学でしか考えていないですよ。とにかくみんなの生活を豊かにするために、このチームということ。みんなが株を持っているようなもんですよね。
『純烈』のメンバーは元々役者で個人事業主だったから、個人戦なんですよ。それが、『純烈』は団体戦なのでチームプレーであり、スポーツマンシップを取り込んで浸透させるのがすごく大変でした。たとえば健康センターに行ったときに、「今日はこの健康センターのスタッフなんだぞ、だからマッサージや掃除しているおばちゃん、風呂洗ってるスタッフと一緒だぞ」という気持ちでいけば、また呼んでくれるだろうし、お客さんのためには何ができるか考えられる。その逆に『純烈』のことを手伝ってくれることもあって、僕(の服)のボタンがバーンと外れたときに、店員のおばちゃんがすぐ裁縫道具出して直してくれて。
「ありがとうね、おばちゃん」
とか言いながら趣味を聞いたり。そういう人間関係、当たり前なんだけれど、気遣いあってそこまでつながれない。本当はつながれたのに。そういった壁を僕は取っ払ってしまうというか(笑)。
ーーそんな中で、怒ることなんてあるんですか?
ないですね。
メンバーには、とにかく失敗を恐れるな、行け!
もちろん失敗を恐れるんだけど、行けっていうときに、行かなかったとき「何のためにここまでやってきたんだ」っていう話はする。メンバーが1人の仕事のときのオンエアは観て、次会ったときに「ダメだったぞ」というメッセージは、なんとなく俺を見たらわかるんじゃないかな。その代わり、勝負で勇気を持って飛び込んでいったときに、やっぱりそこはもう本当にナイスプレー!(拍手する)
ーー人との距離の取り方も必要ですよね。
最初に『純烈』を組んだ時も、会社側に右足、プレイヤー側に左足っていう形で。だから結局、僕はプロデューサーとしていろんな会社の人たち・スタッフとしゃべって、メンバーはそこの会議にはいないわけですよね。逆に楽屋になるとメンバーだけで話す。この状況が、最初はどっちのチームからもスパイ的に見えるんですよ。「あっちでは何て言ってんだろう、こっちではなんて言ってるんだろう」って双方が思う。
でもその時に気づいたのが、圧倒的に孤立していれば、誰の味方でもない。
自分のためにもやるし、周りの1人1人のためにもやるんだから、圧倒的に孤立してれば、誰も疑惑を抱かないという。そのスタイルがこの10年で完全にできたことです。
ーーその距離感ってなかなか取れないですよ。
これがさっきの話の僕の「ズレ」の経験ですよ。人ってこう思うんだなっていうのを、インターネットがない時代からインターネット的な感じで、本音も建前もいろいろ聞こえるところにいた。僕の言葉でも、この人、別の人、今度はまた別の人に聞くと、それぞれの立場とか年齢とか性別で感じ方や捉え方が全然違うんだなって。
それは自分個人の(データ)収集というよりも、妹や弟の立場だったり、父や母、友達だったり、親戚だったりとかっていう人たちと、全部分け隔てなく情報交換できる、そんな人間関係やフラット感が小さい頃からあったから。
ーーそのフラット感は素敵ですよ。もうひとつ、運の良さといいますか。
うん(笑)。
母親のおなかの中にいるときに、死産になりそうだったみたいで、でも生まれてきたタイプなんですよ。だから「生命力」とか「生きる」とか「あきらめない」とか(強く)あって。『逆転あばれはっちゃく』の主人公のオーディションでも、もう既に主人公がほぼ決まりだったんですよ。でもそれをうっちゃった(逆転した)のが僕で。だから「逆転」したから(番組タイトルが)『逆転あばれはっちゃく』になったんです。
はじめ、主人公のオーディションには落ちたんですよ。それで(はっちゃくの)友達役でも受けに行く?と言われて行って。直前まで妹と喧嘩していて。それが冬だったのでホカロンの投げ合いしてたら、それがバーッて破れて、砂鉄まみれで真っ黒(な顔)になったところに、「酒井くん」って呼ばれちゃって。「ちょっと顔洗わせてください」と言ったら、いや、そのままちょっと来てってスタッフに連れて行かれて、ぱっと入ったときに首脳陣が「こんな子いたっけ?」となって。
はじめの主人公のオーディション何百人も見て決まらなかったのに、友達役のオーディションで「あれ、主人公この子でいいんじゃないの?」となった。
「でもこの子主役のときにいましたよ?」「こんな子いた?」みたいな。
ガオレンジャーも、諦めるなネバギバだぜ、みたいな台詞だったり。
あれ? なんか俺はあきらめない、みたいなフレーズでずっとうまくいってるなあ。じゃもう1回だけ頑張ってみようかなと。でも、もう1回だけ頑張ってみよっかって思った時点で、「あれ? これ毎回成功するときに思うパターンだ!」みたいな感じなんですよ。
ーーあきらめないでもう1回がんばってみようというのが実は必勝パターン。
やっぱり芸能界とか人が好きなんだと思います。でないと続けていけないと思う。
あと、今は自分を支えてくれるスタッフやメンバーがやっぱり、えらい。
生活のこととか別にみんなのことを考えなくていいんだけど、でもやっぱりそれぞれの人たちがちゃんとやらないと、やっぱり整わないから。横列に考えがちだけど、ただ、進んでいるときに先頭にいたりケツにいたりするのがリーダーだから。何かミスが起こったとしても、その責任を取るということが主な仕事ですよね。
チームリーダーが脳だとしても、でも心臓だったり肝臓だったり、どれも大事だから。
ーーどれも欠けたら支障が出ますよね。ところで、運って何なのでしょう?
巡り合いだと思う。人でしかないでしょう。人である以上、人ですよ。
ーー夢といってもいいけど、目標、目的意識が強いですよね。
周りの人間に、両親や子どもや自分自身の野望、所得、小さいころの夢、本当に今、最優先にかなえたいベスト3を聞いて、それを実現できるように僕は応援団をやるから。僕からはこれを手伝ってほしい、という取引を(関わるスタッフ)全員とやっています。これを言ったら、ある記者には「それユダヤ人(の契約)ですよ」って言われたことがあります(笑)。
ーー最後に働くサラリーマンにメッセージをお願いします。
時代として総じて言うとしたら、それぞれの会社とか個人とかいろんなことがあるんだけど、でもやっぱり時代にそぐわないとか、社会にそぐわない仕事っていうのはやっぱり淘汰されていくだろうと。多分、今のスタイルだと、ほとんどの会社員の人が時代からずれてしまう。たとえばAIであったり、仕事の簡略化できるもの、効率化できるものっていうこと以外に、人間性的な部分が絶対にもっと必要になってくると思う。それでも席数というか、パイは決まってるから、そこにはまらないと会社員ではいられなくなると思うんですよ。
そのときに一番必要なのは、自分の個性。その言い方で伝わらないのであれば、性(さが)。それは相手にとっては「え?」っていうことだったり。調和しないことなんですよ。皆、名前が違うように、人と全然違うことを出していかなくちゃいけない。「人に合わせる」というよりも、「自分を出す」っていうことが食うことに繋がっていく時代が。
多分みんなが思ってるよりも近いと思う。
だから、守らない。守りに入ったら、もうその瞬間、負け戦の始まりなので。攻めに転じていただきたいと思いますよ。
そういう時代が、もう片足どころか、実はもう両足踏み込んじゃってるので、あなたも中途半端なスタンスじゃなく両足を突っ込むべきだと思いますっていうことですね。そう思うな。
【前編を終えて】
酒井さんは人の心を蕩けさせるような笑顔のヒト。こちらもつい笑顔になりつつ(笑)。
そのため(笑)が多いわけです。
早熟だった子役時代からの洞察力や分析力は円熟味を増し、その人間力といおうか、資質に驚かされます。
「自分はウルトラミーハー」だという酒井さん。特撮界・歌謡界・演劇界・映画界……どこにも固定されず、だからこそいろいろな世界を見ることができるというタレントとしてのトーン。そしてみんなと分け隔てなくニコニコしていたいという感覚。これらも酒井さんの言葉ですが、この中にも「リーダー力」の秘密が入っていると思います。今回の話が、仕事や生活での「考えるヒント」となってくれるならば嬉しいです。
【後編】
出版業界の片隅を振り出しに昭和・平成のおたく系出版社・編プロ・webマガジンなど紆余曲折を経て、令和を生きる編集・ライター。焼肉には「幸せ細胞」を活性化する何かがあると「肉の会」という集まりを開き、そこで才能あるひとたちのコラボを見るのが好き。コロナ禍ではなかなか会えませんが、おじさんももう少しがんばります(笑)。
(イラスト/近藤ゆたか)
m.c.
ビジネスネタはおまかせ!の”理論派校正女子”。仕事やライフスタイルに「少し役立つ」多彩な記事をリリースしていきます。
(イラスト/直井武史)
撮影/杉山大道(MONTAGE-T)