ソフトウエアと制作目線で見る校正② 画像配置とトリミングにひそむ罠
印刷・出版の制作側から見て、データの特性や起こり得るミスを紐解くシリーズの2回目は画像配置とトリミングについてです。
画像データを配置する、リンクする
前回、グラフィックソフトの要・ベクター画像とベジェ曲線について見ていきました。さて、今回はその画像がどのように貼り付けられているかを見ていきましょう。
Adobe InDesign(通称インデ)やAdobe Illustrator(通称イラレ)で、画像を配置するには、フレームを作り、その枠の中にリンクで画像データを配置します。
画像をリンクせずにデータ自体に埋め込む方法もありますが、写真点数が多い大きな案件は同時進行で複数の部署や会社が並行作業をしているので、リンク形式がやりやすいのです。
レイアウト中は低解像度のアタリ※データで軽くして作業し、印刷会社に入稿後、製版※で高解像度データに一挙に置き換えるという手法がよくとられています。
※アタリ・・・本番ではないダミーを業界用語でアタリと言います。アタリケイと言ったら、ラフやカンプの段階では確認のために見せているけれど、本番では取ってしまうケイのこと。
※製版・・・印刷機にかけるための版を作る工程のこと。製版専門の会社もあるくらい、品質を保つためにも重要な工程。この製版の工程に写真の色調補正・修整(レタッチ)が組み込まれている。
印刷には高解像度データが必要
普通、印刷には画像原寸で300~350dpiが必要なんですね。標準は350dpiです。ふだん私たちが見ているパソコンのディスプレイは72~96dpiなので、印刷はいかに高解像度かがわかります。そのまま作業してたら重くてサクサク動いてくれません。そこで作業用の低解像度のアタリデータが製版から支給されます。
写真は同時進行でレタッチが行われている
写真点数の多い案件は、レイアウトと写真のレタッチが同時進行で行われています。DTPオペレーターがレイアウトしている間に、製版ではレタッチャーがフォトショでレタッチを進めています。
レタッチとは、色の調整はもちろんのこと、肌の毛穴から服のシワ、ビルの間に伸びる電線、曇天を晴天に、商品の色変え、シズル感※など、写真をよりクライアントの意向に沿うように修整しているのです。
昔は商品の新色、たとえば口紅が10色あったら10色すべて撮影したのですが、最近は、質感が同じなら1色だけ撮影して、あとはフォトショで色変えしていきます。
※シズル感・・・シズルの原義は、油で揚げたり、熱した鉄板に水を落としたときに、ジュージューと音を立てるさまの意。転じて広告業界では、広告写真において食欲や購買意欲が刺激される感覚を指す。たとえば、炊飯器を売りたい場合、どんな風に米が炊きあがるかを表現する。ツヤツヤと一粒ずつ立った米粒、このツヤ感を強調する。また、米から立つ美味しそうな湯気、これも追加し、シズル感をアップする。
画像はトリミングされている
さて、こうやって苦労して作られている画像ですが、気をつけたいのは、フレームに呼び込まれた画像は、そのフレームの中でほぼトリミングが行われているということです。
ロゴもJPG画像で支給されることが多々あります。ロゴやマークでもJPGで支給されたら、周りの不要な白地をトリミングで省いています。もし、ロゴが不自然に欠けていたら、トリミングで切られてしまっていないかを疑いましょう。
作業中は低解像度だから、製版で高解像度に差し替われば直る・・・なんてことは、ありません。フレームとトリミングは変わってないのですから。トリミングで切られたフレームの外にはみ出た画像は、製版で高解像度データに差し替えても、やっぱり切られるということです。
逆版にも気をつけたい
下の画像には、ひどいまちがいがひとつあります。気づいたでしょうか?
答えは着物の衿の合わせが逆。つまり、この写真は逆版(反転)なんですね。
着物の衿は、「生きてる人は左を上、死んだ人は右を上にして着せる」というルールがあります。着物用語は複雑なので、あえてこう書きましたが、つまり、あなたから見て衿がアルファベットの小文字の「y」になってなければいけない。それをまちがえると致命的です。なんせ死装束だし、縁起悪い、非常識だと即炎上します。以前、自分の顔映りを気にしてか、着物姿を反転してアップして炎上したタレントさんもいました。
そう、この反転、つまり逆版がクセモノなのです。定期刊行物など、オペレーターは過去データをもとにして新規データを作ります。その際、過去の当該箇所のフレームがなんらかの理由で、あえて逆版で使用されていた場合、その逆版のフレームに新たな写真をリンクで置き換えると、やっぱり逆版になってしまうんですね。
上の着物の場合は、着物のルールを知っていればすぐに見抜けますが、そうでないものの場合がほとんどです。
ちなみに洋服の場合の合わせは「男性が左上、女性が右上」です。これも見抜けるでしょう。でも、まったく模様のないTシャツだったら? 気づきませんよね。ところがあとで問題が出たりするのです。もしも、そのモデルが有名タレントさんだったりしたら、あとから事務所からクレームが来たり・・・。タレント事務所からクレーム入ったりしたら相当怖いですよ。大変なことになります。営業さんの頭に十円ハゲができますね。
別紙使用画像一覧表があればグッド
では、どうしたらいいのでしょう。別紙で使用画像一覧表を作り、チーム全体で共有するのが一番です。レイアウト前の素の写真とトリミング前のロゴ等の一覧表です。
それがあればクライアントを始め、ディレクターも営業もデザイナーもレタッチャーも校正も、みなが便利に確認できます。指定のページの指定の場所に、まちがいなく入っているか、誰もが確認することができます。
でも、合わせが左上のシャツを着てる女性モデルを、あわてて反転しないように。一覧表があれば確認とれますね。ほら、やっぱり。この人、男物を着てたんですよ~。ああ、ややこしい・・・。
次回は「グラフィックソフトのレイヤー機能」についてです。
どうぞお楽しみに。