お前を美しくしてやろうか!!!~化粧品検定奮闘記
ビジュアル系ロックバンドのメイクには夢がある。
髪を、目元を、唇を、爪を彩ることで悪魔にも花の化身にもなれる。あ、違った。閣下はメイクじゃなくてあれが素顔だった。
…えーと、それはともかく、色彩や質感を以て装い、「異質な何者かになる」ことで、彼らも私たちも非日常を体感している。普段目にすることのない奇抜な色彩を纏った存在は、それだけで空想と現実の境を曖昧にする。まるで夢の中で踊っているかのように…
そう、化粧とは…魔法なのである。
それと同時に、化粧は現実だ。目元を彩るアイシャドウやマスカラ、アイライナーなど粘膜の近くに使用するものは他の化粧品より安全基準が厳しく定められてるって知ってた?香水、オードパルファム、オードトワレ、オーデコロンの違いって、香料の含有量の差だって知ってた?
正しい魔法とは、正しい知識に基づいて使用されなければならない。化粧と非日常を愛するアテクシは、正しい魔法使いにならなければいけない。
というわけで、アテクシは魔法試験…ではなく化粧品検定を受験することにしたのです。
化粧というのは主に首から上の総合プロデュースなので、ただ色々と塗ったくっておればよいというものではありません。正しい知識というのはまず、基本を知ることから始まります。アテクシたちを美しく彩る化粧品の歴史や効果を学ぶ前に、まず我々は何者かを知る必要があります。「化粧品検定」と銘打ってはいますが、化粧品の知識のみならず髪の毛の組成、爪の成り立ちや各部位の名称、歯の構造についても詳細を知っていなければなりません。その上で、髪を美しく染める染毛剤や爪を輝かせるネイルアート、見た目の印象を抜群に良くする歯のホワイトニングなどについての知識を積み上げる必要があるのです!まあ大変!
…少し落ち着きましょう。
勉強を始めるにあたって、ちょっと勢い込んでしまったようです。
化粧品検定の試験対策としては、公式のテキストがあります。その掲載内容から出題されるようです。一般の書店でも手に入りますが、公式サイトやその他ネット通販などでも購入できます。問題集などもあり、こちらは公式サイトのみ通販を受け付けているそうです。
化粧品検定1級に合格し、所定の手続きを経ることで「コスメコンシェルジュ」という称号を得ることができます。これは特に国家資格のようなものではなく日本化粧品検定協会が独自に定めた資格で、「美容の専門家として認定します」という意味です。(野菜ソムリエとかと同じだと思ってください)セミナーなどで講演したり雑誌やWebに記事を書いたりする時に、持っていると説得力のある称号ですね。でも取得や維持に結構お金がかかるのが難点と言えば難点です。
ではお勉強を始めるとしましょう。前述した通り、化粧品検定ではメイク用品のことだけでなく、首から上と爪の全般的な知識も問われます。各部位の名称、様々な化学系薬品名や自然界に存在する成分や色素の名などなど、覚えることは大量にあります。「硫酸」と聞いただけで全て毒物であると考えてしまう化学音痴のアテクシにはなかなかツラいお勉強です。硫酸ナトリウム?それヤバいヤツじゃん!絶対人体に有害なヤツじゃん!!…いいえ違います。血行促進効果があって、入浴剤に配合されている良いヤツです。酸化チタン?それ絶対危険な金属でしょ!?酸化してるし!…いいえ違います。顔料として普通に化粧品に使用されている安全なヤツです。もう一事が万事こんな感じです。「水添ヒマシ油」とか聞くとホッとしちゃうもん逆に。
お化粧やら化粧品が好きとは言っても、みんながみんなそのすべてに興味、関心があるとは限りません。
お絵描き好きの延長で、色を使ったポイントメイクや髪に関する知識、普段からセレブ気取りで割と気を使っている歯などについてはもともと大変興味があってお勉強も楽しいのですが、アテクシのネックはというと実はネイル。あれこそお絵描きの真骨頂じゃないかという話もあるのですがなにせアテクシ、手が小さいから爪も小さくって弱っちい。形も悪い。親指の爪だってふにゃっと曲がるかんね。だからいろいろやってもなんか加工が映えないし、長くキープもできない。あとなんか、絵を描くからなおさら、ペンを持つ指先に何かが塗られてたり乗ってたりしてると気になる。それで結構長いこと「アタシは…ネイルはいいや…」と諦めていたわけなのだけど、ここにきて諦めるわけにいかなくなった。正直困りました。困り果てました。サインコサインタンジェント以来の苦しみでした(一緒にするな)。各部位の名称がまた、覚えられない!ルヌーラかヌルーラか今でも正直分からない!あの爪の下から白く見える通称「お月様」のことね!
ここでせっかくですので、アテクシが考えてひねり出した暗記用の謎の暗号をいくつかご紹介します。なんか学生時代の受験勉強を思い出すわあ。
・鬼滅の戦争…有機合成色素(タール色素)のうち、染料に当たるのが「黄色5号、赤色213号、赤色223号」。全て奇数です。なかなか苦しいですね。
・江の上ハイゲ…爪の構造です。爪の上に当たるのがエポニキウム。爪の裏(下)に当たるのがハイポニキウム。もはや意味不明ですね。でも良かったら役立ててください。
ここでひとつ、アテクシがなぜこの検定を受験する気になったのか、自分語りをしてみようかと思います。先ほども述べましたがこの資格は国家資格ではなく、コスメ業界や美容業界に就職などする際、ちょっとは有利になる…かな…?くらいのもので、これでこの業界でバッチリ生きていけます!というお墨付きにはなりえません。まあ、前回に続き「オモシロそうだったから…」なのは否めないのですが、ある印象的な出来事があったのです。
とある小売店の広告の校正をしていたKさん(推定30代男性)がある商品に目を留め、こう呟いたのでした。
「『手や顔が濡れていても使えます。』…これ、どういう意味か分からない」。
これは、クレンジングオイルなどに記載されている説明文です。お化粧を日常的にする人なら当然のように理解している内容の文章ですが、Kさんにはこの意味が分からない。化粧品は基本的に油でできているので(かなり乱暴な言い方ですが)、お化粧を落とす時に手や顔が水で濡れているとクレンジングオイルと上手くなじまないため、ひと昔前のものには「手や顔が乾いた状態でご使用ください」などと記載がありました。ですが技術は進化し、お風呂場などで手や顔が濡れてしまっていてもお化粧を落とすことができるクレンジングオイルが出てきたのです。ほぼ間違いなく、Kさんはお化粧をしません。だからアテクシが当たり前のように知っているこの説明文の意味を知らなかったのです。つまりアテクシのこの知識は世間一般で通用する「常識」ではなく、「知る人ぞ知る専門知識」だったのです。このことに気づくと、こういったことは他にもいろいろあることに思い至りました。フルーツ酸やパパイン酵素がどういった働きをするか。ハイドロキノン含有の化粧品を扱う際に注意しなければいけないことは何か。UVカット剤のSPF、PAはそれぞれ何を意味するのか。…アテクシの脳内に散漫に散らばったこの「専門知識」たちを、きちんと統計立ててまとめ、学び直す必要があるのではないか?アテクシはそう思ったのです。そうしてこそ、アテクシは正しい魔法使いになれると。
□ちょっと一息★オススメ★美容情報□
文政8年(1825年)から続く、日本で最古の紅屋、伊勢半本店が運営する博物館。創業当初から長く受け継がれてきた「紅づくり」の技術を今に伝えるとともに、たくさんの資料を公開しています。江戸後期から使われてきた伝統的な「紅」のお試し付けも体験できて、化粧品好きにはたまらんミュージアムなのです!
この検定は、合否以外の採点結果については公表しておらず、また試験の内容、解答などについても質問等を受け付けていないため、出題の傾向の分析が難しいのが特徴です。受験後も解答用紙はもちろん問題用紙も回収され、webやSNSなどへの試験内容のアップは禁じられています。なので、試験内容には触れず、実際に試験を受けてみてどんな感じだったかを簡単に書いてみます。
まず受験者の大半が若い女性です。ごく稀に年季の入ったゴージャスなマダムがいらっしゃいます。また、男性の姿もちらほら見られました。アテクシが行った会場では、受験者は300人くらいいたでしょうか、人気のある検定であることが分かります。そしてみんな、とにかく髪がキレイ!(男性も!)やはりこういった資格を目指しているということは、普段からの意識が高いのでしょうね。可愛らしいネイルアートを施している方もいらっしゃいました。普通に地味なBBAのアテクシ、大変居心地が悪うございましたよ…。
ソーシャルディスタンスを保つため、3人掛けの席の両端に2名ずつ着席して試験を受けるのですが、アテクシのお隣さんはついに姿を見せませんでした。確か…3年ほど前に受けたカラーコーディネーター試験の時も、お隣さん来なかったっけな…なんだ、アテクシの隣には人が来ないことにでもなってんのか!!(微怒)
そして、またしても試験会場内に時計はありませんでした。(前記事「売れっ子漫画家になれるかもしれないんだけど質問ある?」参照)学習しないアテクシ、今回も時計を忘れるという失態。もうね、おバカさんなのかも知れません。
しかし、前回の試験と違い、時計の有無は問題ではありません。時間配分が必要な試験ではないからです。答えが分かる問題は分かるし、考えたところで分からない問題は分かりませんので、そもそも時間の経過を把握することには意味がありません。見直しの時間が十分あるに越したことはありませんが、目の前の問題を粛々と解いていくだけです。試験はマークシート方式なので、よく消える消しゴムはマストアイテムです。
なんやかんやで試験が終わり、退室です。しかし受験者が多いことと、ソーシャルディスタンスをキープしつつの退室ですので時間がかかる。受験者の多い試験は大変です。前回の「漫画能力検定」のアテクシのオンリー受験は何だったんだ。テキストを見直しながら、イマイチ正解している自信がない個所を確認します。…これが結構間違っている…。あ、あれも間違ってたみたい…これはアカンかも知れん…いやいや、合格ラインの7割取れてりゃええねん、3割は落としてたっていいんやで…と自らを慰めつつ帰途につきました。試験あるある。
直前の詰め込み試験対策も含め、暇を見つけながら勉強していた期間は半年ほどです。これもあるあるですが、化粧品の裏側をよくチェックするようになりました。細かい成分やその働きについても学ぶので、だいたいどういう特性を持つ製品なのか分かるようになります。(でもこれ、職業病みたいで地味に疲れます笑。「ブチルパラベンが入ってる…!やめとくか…」とか、「ココイルグルタミン酸がメイン…ちょっと毛先が傷みがちだしこれにしとくか…」とか、こだわり始めると止まらない)どういう作用があるかについては個人差が非常に大きいので、どの成分が良いとは一概には言えないんですけどね。
そして運命の合否通知です。
協会から「合否通知を郵送しました」のメールが届き、自宅に帰ってみると…封筒がポストに入っておりました!合否は封筒の上からは分かりません。これがコミケの当落通知なら封筒見ただけで分かるんだけどな…(きょうのまめちしき)おそるおそる開けてみますと…
合格!!!!
やったー!アテクシやりましたわー!!!
いやー今回はマジでダメかと思ってました。難しかったですもん。採点結果が公表されないので確かめようがないのですが、たぶん合格ラインギリだと思います。だって難しかったですもん。(大事なことなので2回言う)
合格証にはこんなステッカーも付いてきました。早速社員証に貼りました。なんかすごい人になった気分です。明日からアテクシ「スペシャルビューティーアドバイザー」とか名乗っちゃおうかしら…!「究極☆美の伝道師」とか言ってウチの社内に相談コーナー作っちゃおうかしら…!
美容業界に限った話ではなく、薬品開発や医療など、様々な技術は常に進化しています。アテクシが得た知識も、10年後には全く役に立たないものになっているかも知れません。でも、興味のある分野について知ることは楽しいことです。お化粧や化粧品を好きでいる限り、アテクシは新しい情報や知識を集め、学び続けて行きたいと思っております!
おまけ
マスカラはわりと難しい化粧品で、綺麗に塗ることができるかどうかは多分にその日の運に左右され、自分の力ではどうしようもないことだったりしますよね。これってその日の運勢を占うとかに使えないかな?研究を重ねていつか「マスカラ占い」の開祖を目指そうかと考えております!(でっていう)
【資格データ】
日本化粧品検定1級
主催:一般社団法人 日本化粧品検定協会(文部科学省後援)
難易度:★★★★☆(個人の感想です)
ストロベリー・スマッシュブレイド
旅スレを徘徊する絵師。ウサギとゴシック&ロリヰタをこよなく愛す。全体的に黒い。
梅干し大好き。 Macのこととなるとキョドりがち。フォカヌポウwww