アメリカで映画監督になる! 堺三保さんに訊く、夢をかなえるための第一歩!【後編】
名刺(作品)はできた
大切なのは亀の歩みでも前に進むこと!
後編では、映画『オービタル・クリスマス』完成までのお話と、これからの映像コンテンツビジネス、さらに堺さんの今後の抱負について伺います。
映画を勉強するために、43歳でアメリカへ留学というチャレンジに驚く筆者に、「そんなものですかねえ」と当たり前のように話す堺さん。
「亀の歩みですよ。ずいぶん時間かかってますよ」このようなお言葉からは堺さんの無理をしない自然体な姿勢を感じます。
【プロフィール】
堺三保(さかい・みつやす)1963年大阪生まれ
作家/脚本家/翻訳家/レビュアー/SF設定。2021年2月『オービタル・クリスマス』で監督デビュー。そして、デジタルハリウッド大学講師に就任するなど多岐に渡り活躍中。
【主な作品】
脚本
『オービタル・クリスマス』(短編) (2021)
『ISLAND』 東京MX他/feel. (2018)
『ギャラクシーエンジェル』 TV大阪/マッドハウス (2003)
『無敵王トライゼノン』 TBS/イージーフィルム (2000 – 01)
ストーリー・スーパーバイザー
『ニンジャバットマン』 (2018) ワーナージャパン/ライデンフィルム
『DCスーパーヒーローズvs鷹の爪団』 (2017) ワーナージャパン/DLE
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note
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「何もしないよりマシだろ?
クリスマスに奇跡はつきものだしな」
(『オービタル・クリスマス』劇中台詞より)
ーークラウドファンディングで資金調達できて、いよいよ製作ですね。
2000万集まったんで、自分でカメラなどをやらずにいろんな人を雇って使えることになったんですね。
まずは、2018年10月末にアメリカでメインスタッフとの顔合わせと役者のオーディション。
特撮CGのキムラケイサクさんと、記録が必要だろうということで、又従兄弟(またいとこ)で作家の川端裕人さんにお願いしたら「行く」って即答してくれて。
12月にアメリカに行って撮影。
そもそもアメリカで撮りたかったのは、日本の流儀(早朝から深夜まで長時間かけて作る)で撮ったら、僕は体力的にもたないと思って。アメリカ式は役者の組合との協定があるので制約があるんですよ。
例えば、その日の撮影が終わったら、次の撮影まで12時間空けないといけない。夜中0時に終わったら、翌日は12時というように決まりがあるんです。それならば、朝8時に入って、夜8時に終わる方がいい。
もうひとつは6時間以上の場合には、間に温かいご飯(ケータリング)を出さなければならない。
アメリカにはいろんな宗派の人がいて、豚肉や牛肉がダメな人もいるので、ケータリングには常にベジタリアン用メニューがあったのをよく覚えています。
今回の子役の子は11歳(撮影時)だったんですけど、撮影は1日6時間まで。平日の場合、それに2時間は家庭教師を呼ばなければならないと。
ーー撮影そのものは問題なかったんですね。
すごくスムーズでしたよ。カメラもアシスタント含めて3人いて、撮ったらすぐに外部メディアに転送保存してくれたりして。
帰国してから音入れ、特撮ですね。
そこからずっと大変だったのは、ひとりでCGをやってくれたキムラケイサクさんですけどね。
ーー集めた予算の管理も必要ですよね。
アメリカで800万円くらい。合計で1700万円くらいかかって。その後、支援して頂いたみなさんに配るDVDとBlu-rayをプレスしたら、結局ちょっと赤字になってしまいました。(※クラウドファンディングは手数料があるので、支援金すべてが入るわけではない)
スタッフみんなのギャラは残念ながら最低価格なんですけどね。クラウドファンディングで資金を集めるのと、最低価格でみんなにがんばってもらうのは今回限りにするつもりです。
次はもっとちゃんとみんなに最高価格を支払えるくらいにしたい。
次はお金を儲けることを考えて、みんなで幸せになるようにしないとダメだと思ってます。
ずっとアマチュアイズムでやってちゃダメ。ちゃんと企画として、なおかつ利益を生まないと。
そのためにも、こういうものにお金を出す会社は日本では少ないので、やはり海外でやりたいなあ、と。だから英語で作ったわけで。
ーー利益をきちんと出すことを考えるのはどんな業態でも同じですよね。まずは売り込み、営業でしょうか。
映画祭は今ずっと応募はしているんですけど。
映画祭の短編は30分以内なんですけど、USCの先生に15分にしておかないと、賞は取れないよと教えられました。短くしないと最後まで観てもらえないんです。
『オービタル・クリスマス』は本編13分ちょいで、クレジットが約3分。
TVアニメのAパート(30分もののTVアニメの前半部分)くらいなんですよ。できるだけ短くしようと。削ることには躊躇ないですから。
テレビアニメの仕事が長いからなんだろうと思います。カットや組み立ての感覚がアニメになっているんでしょうね。
来年は直接アメリカに行って向こうの制作会社に売り込んで、営業をしていきたいなあと思ってます。
15分の短編製作費を仮に1500万円とすると、2時間で1億2000万円。
長編になると(費用が)3倍になってしまうので。
3倍分も載せると、4億8000万円。約5億円なので、当てようと思ったら、名前の通っている役者をひとりかふたり、どんとのせる。更にロケーションを増やしたりすると、最低10億円。
10億円出してもらえるネタを持っていかなきゃならないし、出資額を回収して、更に利益を生まないとならない。
ーーまだ言えないことも多そうですよね。
オリジナルの長編企画が通らなくても、フランチャイズで(自社のもっているタイトル)続きものでもいいんですよ。『〇〇〇〇3』とか『〇〇〇〇4』とか。ジャスティン・リン監督だって『ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT』で当てたんだから。ビデオスルーでなくて、劇場でかかるやつなら、どんなダメなシリーズでもいいから。
ーーいろんな要素が必要ですよね。
アメリカ進出は、努力、能力、運、タイミング、人の縁などがすべてそろって、初めて何とかなるものだと思うので、まあ、慌てず騒がずあきらめずゆるゆると。
ーー最近ではネット配信というのもありますよね。
今、アメリカで配信戦争が起きています。
Netflixが世界で約2億ユーザーいて、それをDisney+が猛追していて。始めて1年半で1億ユーザーですよ。
コロナ禍の影響もあるけど、Disneyのブランド力とオリジナル作品の『マンダロリアン』も要因でしょう。
さらにワーナー・ブラザーズがHBOマックス、ユニバーサルがユニバーサルプラス、パラマウントがピーコックというそれぞれ自社の最新サイトを始めていて。それにAppleTV+を入れてだいたい6~7社くらいで競争している。
配信競争でどこもオリジナル作品が欲しい。だから今は日本のアニメや実写は売り時なんですけど。
これからの日本国内のシェア(市場)はどんどん減っていく。人口が減るわけだから。そうなってからでは遅いので、今日本の監督やスタジオの力を世界に示さないと、それもやはりアメリカで示すことができないと。大きな市場と考えると、アメリカか中国なんですよ。中国は資本の制約が多いことを考えると、やっぱりアメリカなんです。
世界に向けてなんとかしようとするならば、このアメリカの配信競争の間に「日本にはこんな監督がいるぞ」「こんなスタジオがあるぞ」と、アメリカに存在を示せないとダメだという気がしていて。この5年間くらいが、日本のアニメや映画などのコンテンツ産業の天王山じゃないかと思っています。
ここで成果を出せるかどうかで、海外で通用する会社やクリエイターとなるのか、価値が下がっていくのかが決まる。そう思いますね。
僕も次に長編を撮るとしても、やはりアメリカで撮ろうと思っています。
ーー長編はぜひ観てみたいですよ。
亀の歩みだから(笑)。ずいぶん時間かかってますよ。
アメリカ留学に行くって決めたのが2003年で、行ったのが2007年、卒業が2010年、やっと短編が完成したのが2021年ですからねえ。
ーー夢を持っていても、行動できない人は多いと思いますよ。
あまり強くやらねば!と、こう(顔の左右に手のひらをあげて思いつめた狭い視野の例えをしながら)なっている人こそ、折れやすいんじゃないかと思ってます。
なんとかなる時になんとかなるんだよ、と思っていたらいいんじゃないですかね。そうずっと思っていて。うまくいかないことの方が当たり前なので、うまくいけばいいなあと思って機会を伺うくらいでいいんじゃないですか。
ーーゆるやかに降りないという感じですか。
ゆるゆるとやることが大事なのかも。降りないだけでいいんじゃないと思っていて。
現実的にお金の計算とかどういう座組でやるかとか、具体的な案があって成り立つものなので、自分のできることを具体的に積み重ねていけばいいんじゃないかな。あとは機会かな。
ーーありがとうございます。今後の抱負というか目標をお訊かせください。
とりあえず(『オービタル・クリスマス』で)「こういうことができますよ」という名刺はできたので、「長編映画を監督する」「その映画で、製作費をリクープ(製作費用を回収)するだけでなく、利益を上げる」「アメリカのエージェント/マネージャー/弁護士と契約を結ぶ」「アメリカの監督ギルドに入る」「アメリカの映画製作会社と契約を結ぶ(案件を受ける)」です。
これが全部できれば、ようやく「わし、アメリカで映画撮ってまんねん」と言えるかと。
クラウドファンディングには、単なる出資・リターンがあるという他に、夢を託す、気持ちを乗せるというものがあると思う。特にエンタメ作品に参加(出資)する喜びがそこにあると思います。
「亀の歩み」と堺さんはおっしゃりますが、その亀の歩みであっても、前に進むこと、そして降りなければ、チャンスはぐるぐると巡り巡ってくるのかと思います。
世界のサカイになって、あのサカイは最初の短編映画の時にインタビューしたんだぜ!と自慢できる、そんな日が来ると思っています。本当にありがとうございました。
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【合本版】ルーカスの後輩になる! ~堺三保留学日記~ 全6巻セット (BOOK☆WALKER セレクト) Kindle版
もうひとつの『オービタル・クリスマス』
声優であり小説家デビューした池澤春奈さんのノベライズ版はこちら
昭和を引きずったまま平成と令和を生きる編集・ライター。
アニメ・マンガ事情は、アメリカやヨーロッパに続き、中国に興味あり。
(イラスト/近藤ゆたか)
m.c.
ビジネスネタはおまかせ!の”理論派校正女子”。仕事やライフスタイルに「少し役立つ」多彩な記事をリリースしていきます。
(イラスト/直井武史)
イラスト/コラム 近藤 ゆたか(こんどう ゆたか)
1964年東京の下町「玉の井」生まれ。
イラストレーター、漫画家、時代劇アジテーターとして活動。
現在、長年イラストを担当する『空想科学読本』が、全国の希望された高校の図書館への配信で連載中。それらを新たにまとめ直した電子書籍版も発売中。
またCS放送・時代劇専門チャンネルの番組案内『時代劇専門チャンネルガイド』でイラストコラムを連載中。