TVは信じられるか?~ドキュメンタリー『さよならテレビ』を観る
こんにちは。『ダンラク』ライターの坪内悟です。
校正・校閲の仕事をしていると、大事なのが「事実確認(ファクトチェック)」。
・・・となると、私たちはなるべく「事実」を知っていなくてはなりませんよね。
そう考えて、ここ何年か私が興味をもっているのが「ドキュメンタリー番組」なんです。
フジテレビ日曜午後の『ザ・ノンフィクション』も毎回録画を欠かせません。
「♪生きてぇぇぇる 生きているぅぅぅ」
って、あの『サンサーラ』が耳に残りますよねぇ。
東海テレビのドキュメンタリーがスゴい!
そんな中、おととし・去年と、テレビ業界で、あるドキュメンタリーが話題になりました。
それを制作したのは、東海テレビ。
東海テレビといえば、フジテレビ系列の名古屋にあるテレビ局で、かつては
『牡丹と薔薇』『はるちゃん』『花嫁のれん』などの昼ドラを制作していましたよね。
でも実はこの東海テレビ、ドキュメンタリーの世界でも傑作を生みだす局として定評があるんです。
<東海テレビ制作の主なドキュメンタリー>
●話題の人物の「信念」とは?それを取り巻く社会問題とは?
・「戸塚ヨットスクール事件」の戸塚校長の現在を追った
『平成ジレンマ』(2010年)
・「オウム真理教事件」「和歌山毒カレー事件」などを担当する弁護士・安田好弘氏に密着した
『死刑弁護人』(2012年)
●「生きるとは?」を投げかける
・ドロップアウトした少年たちに野球と勉強の場を与えようとNPOの理事長が奔走する
『ホームレス理事長 退学球児再生計画』(2013年)
・暴対法で虐げられた現代で、極道に生きる人々の “日常の暮らし” を映した
『ヤクザと憲法』(2015年)
・90歳と87歳の老夫婦が営む、四季を通した究極のスローライフ
『人生フルーツ』(2016年)
●東海テレビが追い続ける、戦後唯一、無罪からの逆転死刑判決となった「名張毒ぶどう酒事件」
・独房から無実を訴え続ける死刑囚の奥西勝さんを名優・仲代達矢さんが演じた
『約束 名張毒ぶどう酒事件 死刑囚の生涯』(2012年)
・釈放された「袴田事件」の袴田巌さんと獄死した「名張毒ぶどう酒事件」の奥西勝さん。冤罪を訴え続けたふたりの人生を追う
『ふたりの死刑囚』(2015年)
・“昭和のミステリー”ともいえるこの事件の、いまもなお解明されずに残る多くの謎に挑む
『眠る村』(2018年)
私も『ヤクザと憲法』を観ました。
組事務所に向かったテレビクルーがまず、組員さんにこんな感じのことを言われます。
「そんなヤクザ像、映画の見過ぎじゃないですかww」
ドラマのような「ステレオタイプの極道イメージ」ではなく、彼らも普通に“日常生活”を送っています。
画面に映るのは、「実録」ではなく「本物」。
「あ、リアルってこうなんだ・・・」と衝撃を受けました。
(そりゃ、ときにはゾッとするシーンもありましたけど・・・)
そして
「ものすごいところに入っていくなぁ」という東海テレビドキュメンタリー班の “肝の据わりかた” にも驚きました。
裏で流通した『さよならテレビ』
で、そんな東海テレビが2018年、いろんな意味で “ヤバい” ドキュメンタリーを作りました。
それが『さよならテレビ』という番組。
僕ら世代もそうでしたが、テレビは「メディアの王者」でした。
それがインターネットやSNSが登場したり、
いつしか「マスゴミ」なんて呼ばれるようになったりして・・・
では現在のテレビはどんな姿をしているのか?どんな風に作られているのか?
それを探るために、『ホームレス理事長』『ヤクザと憲法』のクルーが
なんと自社の報道部に密着しました。
この放送、日曜夕方4時からの放送だったのですが、
視聴率は2%台と、かなりひどい数字だったようです・・・。
(普通、この時間帯なら3~4%はいくそう)
ところが、その後、予想もしなかったことが起こります。
2018年から2019年にかけて、
このドキュメンタリーを録画したDVDが、テレビ業界の人々の間でこっそり出回り始めたのです。
放送を観た人が他の人に勧めて、またその人が別の人に・・・とまるで怪しい勧誘のように。
その広まり方から「裏ビデオ」とも呼ばれたそうでw、スタッフは必死に「密造酒」と呼んでくれと反論したんだそうwww
また、名古屋ローカルでの放送だったので、その他の地方では観られませんから
放送局によっては社員を集め、録画DVDの「上映会」や「勉強会」まで開かれたといいます。
(なんとあの公共放送でも・・・!)
そして、今年2020年1月から、未放送シーン約30分を追加した
『劇場版 さよならテレビ』の全国順次公開が開始されました。
私が向かったのは、東京の「ポレポレ東中野」という映画館。
前売り券を買ってはいたのですが、座席数96人という小さめの映画館なので、
事前にtwitterで混雑状況を調べると、毎回ほとんど満席・・・!
こりゃイカン、ということで上映開始の1時間前に行って、整理券をゲット。
そのあとも続々とお客さんが。
ロビーでの会話などを聞いていると、やっぱりテレビ業界人が多いみたい。
実際に、私が昔お仕事でご一緒した、某民放キー局のプロデューサーも来ていました。
そりゃ、他局の報道部を覗ける機会なんて、なかなかないですからねぇ。
さて、どんな内容なんでしょうか・・・?
『さよならテレビ』の衝撃的すぎる内容
そして、いよいよ上映開始。
のっけからクセがすごいんじゃ。
報道部にカメラを向けるドキュメンタリークルーに反発し、取材拒否する報道局員たち。
普段「撮る側」の人が「撮られる側」になった時のストレスがむき出しに。
これでなんと2か月も取材ができなくなるのです。
あっという間に、映像に引き込まれていきます。
そして報道部との和解を経て、撮影再開。
徐々に焦点は3人の報道部員に絞られていきます。
入社16年目のアナウンサー。
記者歴25年目のベテラン契約記者。
新たに配属される若手派遣社員。
この3人を軸に、テレビ局が現在抱える問題が浮かび上がってきます。
また、自らの局が起こした、2011年のあの『セシウムさん騒動』にも臆することなく切り込んでいきます。
スゴすぎる・・・。
私も以前、放送作家としてニュース番組に携わっていた経験もあり、
非常に状況がわかるので、正直、
「これはイカンよね」というのと
「まぁ・・・これはしょうがないよね・・・」というのが
混在している感想でした。
それはテレビだけでなく、ラジオや雑誌、Webなどを通じて
情報を発信する者全般にとってイタイほど突き刺さりましたし、
肝に銘じておかなくてはいけないこともたくさん描かれていました。
そして、そろそろ終わりかな・・・と思いかけた後にくる、驚愕のラスト。
SNSでは「イヤーな気分になる」とか「モヤモヤが残る」と書かれていますが、
これはぜひ映画館でお確かめください。
(東海テレビのドキュメンタリーは、DVD化されていません。
この『さよならテレビ』もきっとDVDにはならないでしょう)
私としてはこのラストに、
作り手にも受け手にもわかってもらいたい
「メディアの本質」があると思います。
メディア関係でお仕事される方はもちろん、自分の仕事を見つめなおすいい機会になりますし、
そうでない方も、この『さよならテレビ』を観て、「メディア」や「情報」について改めて考えてみてはいかがでしょうか?