【旅】横浜山手西洋館めぐり#03 山手234番館〈神奈川県横浜市〉
都会での忙しい毎日に疲れたら、ふらっと旅に出てリフレッシュしてみませんか?
シリーズ『町旅』は、そんなあなたを癒してくれたり、
改めて日本の魅力を再発見できる「ニッポンの旅」をご提案します。
外国人居留地の面影が残る神奈川県の横浜にある、趣深い「横浜山手西洋館」を巡るこのシリーズ。
現在コロナ禍ということもあり、館内での撮影は禁止なのですが、
この現地取材は2016年に行われたものなので、その内部もバッチリ撮影。
見どころも写真でたっぷりお伝えしています。お楽しみに♪
第3弾の今回は……
横浜市認定歴史的建造物『山手234番館』。
住所としては、「神奈川県横浜市中区山手町234-1」に位置します。
山手234番館は、関東大震災後の昭和2(1927)年頃に建てられた同じ間取りの4つの住居からなる、外国人向けのアパートメントハウス(共同住宅)です。
関東大震災により横浜を離れた外国人に戻ってきてもらうための復興事業として、この頃、山手では外国人居留者のための住宅がいくつか建てられました。
これもそのうちの1つです。
設計したのは、桜木町に事務所を構えて和洋の建物を手掛けた建築家・朝香吉蔵。
その後は、第二次世界大戦後に一時米軍による接収などを経て、
昭和50年代頃までアパートメントとして使用されていましたが、
平成元(1989)年に横浜市が歴史的景観の保全を目的に取得しました。
そして、平成9(1997)年から保全改修工事に着工し、
平成11(1999)年から現在のように一般公開されるようになりました。
この建物は関東大震災直後の昭和初期に建設された外国人用の共同住宅(アパートメント)として、
横浜市内に現存する数少ない遺構の1つとされています。
洋風住宅に標準的な設えである上げ下げ窓や鎧戸、煙突なども簡素なかたちで採用されています。
これも震災後の意匠にはよく見られる特徴です。
一軒あたり約100㎡の広さからなる3LDKの間取りは、合理的かつコンパクトで、生活空間としても使いやすく設計されています。
建物脇の石畳のテラスには、たくさんのチューリップが午前中の陽光に照らされて咲いていました。
球根の産地である新潟で、球根育成のために不要となったチューリップの花をもらって育てているとのことです。
それでは、中に入ってみます。
改修前の元の建物では、各玄関から一直線に別々の階段がそれぞれの部屋まで2本伸びているという造りでした。
それを横浜市が取得した後、一般の施設利用を考慮して、現在のゆるやかな勾配の折り返し階段に改修したんだそう。
当初は現在の踊り場の位置で2階の部屋の入り口に達する造りであったことを考慮すると、
今の約2倍の急勾配の階段だったことになります。
これはおそらく設計が日本人(朝香吉蔵)であったこととも、関連がありそうです。
一見、階段スペースがもったいなくて場所を節約しているかのように思われがちですが、実際には、日本家屋の場合には、柱と柱の間が1間であり、
さらに柱の上に梁が載っているのが標準的な構造のため、階段の位置に梁があると2間で上がる階段の場合には、途中の梁が邪魔になってしまい支障が出るわけです。
そこで無理やりに1間の間に階段を設置するような建築が多くなったと考えられています。
玄関ポーチから中へ入り、1階の左手の部屋へ足を踏み入れると、
そこには往時の暮らしを彷彿とさせるリビングルームの様子が再現されていました。
適度に絞られた照明と、アイボリー・こげ茶・モスグリーンetc..と抑制されたトーンの色調とが相まって、
たいへん居心地の良い、リラックスできる空間になっています。
アームチェアが2脚置かれた窓側の反対側には、
8人掛けのダイニングテーブルと壁際に置かれた大きな食器棚がゆったりと配置されています。
約20畳という広い客間ならではの贅沢な空間づかいです。
優美なフォルムの曲線の天井アーチが広いダイニングスペースの中で、アクセントとして効いています。
ここでは本物のヴィンテージの逸品たちで構成された居住空間をつかの間味わうこともできます。
肘掛椅子の後ろにあるのは、年代物の蓄音機。
今はもう壊れて音が出ないことも予想されますが、それでも居間(客間)に飾っておきたくなるような代物です。
さらに肘掛椅子、暖炉、丸テーブル、窓枠、つづら(のように見える洋家具)と
選りすぐりのアンティークたちで構成された空間は、なかなかに味わい深い世界です。
客間と繋がっているキッチンの壁を隔てて、その奥の小部屋には三面鏡とキャビネットが置かれ、
夫人専用の個室をイメージしたかのような家具たちで構成されています。
さらにこの奥にも、もう一部屋ありますが、現在は簡易ソファーと説明パネルが置かれた休憩室のようになっています。
この4区画の住居の中心部には、それぞれに窓がある中庭風の吹き抜けが設けられています。
通気と採光はもちろん、デザイン性にも深く寄与しているようにも感じられました。
通常は2階の大部分はギャラリーなどの貸し出しスペースになっています。
この日も2階では1区画分のスペースを充てて、トールペインティングのようなアート作品の展覧会が開催されていました。
この洋館の雰囲気にぴったりの作品たちが所狭しと並べられ、
これもまた演出?と一瞬錯覚してしまったほど、周囲とよく調和していました。
山手234番館を出ると、右隣には
『えの木てい(Enokitei)』という洋菓子店の建物があります。
こちらの建物も山手234番館と同じ朝香吉蔵による設計で、もとは外国人向けの住宅(山手89-6番館)であったことも同じです。
1階と庭がカフェになっており、入り口から入るとすぐに洋菓子ショップの2階へと続く階段があります。
さっそく上ってみると、山手234番館の「改修前」と同じ「急勾配」の階段の造りで、当時からの状態のまま、現在も使われているようでした。
1階のカフェは、当時の建物をそのまま利用しているため、このようにアンティーク。
女性には特にこの雰囲気が人気なのもあり、平日にもかかわらずこの日も満席でした。
そして、人気メニューの1つ「桜のティラミス」とコーヒーのセットです。
桜の色と香りだけではなく、朝香氏の西洋館が醸し出すアンティークな匂いにも酔ったひとときでした。
次回は「エリスマン邸」を訪れます。どうぞお楽しみに。
(※編集部注:この現地取材は2016年に行われました)
※編集部注:記事内で紹介したスポットは現在、ウィルスの影響で営業時間の変更や休業されている場合がございます。
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